木村 薫(東京大学)

会長就任のご挨拶 ―和文論文をぜひご投稿下さい―

木村 薫(東京大学)

この度、一般社団法人日本熱電学会の第4期の会長を務めさせていただくことになりました。私が日本熱電学会の前身の熱電変換研究会と最初に関わったのは1996年頃でした。1997年に発行された熱電変換研究会ニュースレター(TECJ Newsletter)Vol. 1, No. 1に、運営委員33名の名簿がありますが、現理事で名前があるのは、慶応義塾大学名誉教授の太田英二先生と私の2人だけです。そこで最初に「これまでの日本熱電学会」について私の知る限りの事実をご紹介し、その後に「これからの日本熱電学会」について、私の考えをお示しして、会員の皆様にお願いしたいことを書かせていただきます。

1.これまでの日本熱電学会

1993年に日本で初めての熱電変換国際会議(第12回ICT)が横浜で開かれたのを契機として、1994年に熱電変換研究会が発足したと伺っております。最初の会長は慶應義塾大学名誉教授の坂田亮先生、副会長は山口東京理科大学の松原覚衛先生、運営委員長兼事務局長が湘南工科大学の梶川武信先生でした。執行部のこの体制は、2004年の日本熱電学会(任意団体)設立を経て、第2期終了の2008年まで14年間続きました。この間に、現在の10委員会がほぼ出来上がり(当時の企画委員会が、現在のプライムコア委員会と入れ替わっていますが)、学会が生まれるまでの時期でした。2008年の第3期から、会長が梶川武信先生、副会長に名古屋大学の河本邦仁先生と東京工業大学の吉野淳二先生、総務理事に北海道大学の鈴木亮輔先生が就かれました。この体制は、2012年の一般社団法人化を経て、法人としての学会の第1期終了の2014年までの6年間で、法人化の他にもアカデミックロードマップの作成やプライムコア委員会の設立などで、学会が育成されました。2014年の法人としての第2期から、会長は河本邦仁先生、副会長は鈴木亮輔先生と私と2016年の第3期から株式会社KELKの福田克史様、総務理事は産業技術総合研究所の舟橋良次様が務めて来られました。この他に、1994年の研究会発足から現在に至るまで、24年間もの長きに亘り本会の財政を守って来られた経理委員長の太田英二先生が執行部におられたことは、皆さんご存知のことと思います。第3期の初めに、河本先生は、明確な基本方針と具体的な検討課題を示されました。そして、この4年間にほとんどの課題を実現され、学会の会員も500名を超え、学会を大きく発展させられました。河本先生の基本方針は下記の通りです。

河本先生の基本方針
 1.学術研究レベルの向上
 2.熱電変換技術の産業化促進
 3.国際連携の推進

実現された具体的検討課題については、日本熱電学会誌第15巻第2号の大瀧先生の「副会長就任のご挨拶」に述べられていますので、ご参照下さい。因みに会員数は、2004年に270名、2014年に370名、2018年に500名超と順調に増加して来ました。

2.これからの日本熱電学会

さて、以上のように見てきますと、日本熱電学会を生み出された坂田先生、育成された梶川先生、発展された河本先生と大先生方の後を継いで会長になった私に課せられた責任は大変重く、私には荷が重過ぎると感じざるを得ません。幸い、副会長を初めとした各委員長、各理事に、大変有能な先生方がおられますので、この方たちを頼りにして何とか役目を果たしたいと思っております。

第4期の基本方針は、上記の河本先生の基本方針を引き継げば良いと思います。具体的課題については、ほとんどが実現されましたが、河本先生から、一つ宿題として「日本学術会議協力学術研究団体」への申請を託されました。この申請に必要な要件は、ホームページ(http://www.scj.go.jp/ja/group/dantai/index.html)を見ますと、「①学術研究の向上発達を主たる目的として、その達成のための学術研究活動を行っていること、②活動が研究者自身の運営により行われていること、③構成員(個人会員)が100人以上であり、かつ研究者の割合が半数以上であること、④学術研究(論文等)を掲載する機関誌を年1回継続して発行していること等が必要です。」となっています。数年前に一度、申請を試みましたが、④の条件が満たされていない(欧文論文誌Materials Transactionsの共同刊行を行っていましたが、主体は日本金属学会です。日本熱電学会誌には学術論文が掲載されていませんでした。)ことから、断念しました。日本熱電学会誌では、2017年の4月から査読付論文の受付が開始され、2018年の4月から論文が掲載されています。ただ、まだまだ投稿数が少ないのが現状で、今後、投稿が無くなってしまいますと、また④の条件が満たされなくなってしまいます。この挨拶の副題として「和文論文をぜひご投稿下さい」を付けたのは、このためです。修士課程で卒業する学生の場合、英語の論文を投稿するにはハードルが高くても、日本語の論文なら投稿し易いと思います。日本熱電学会誌に掲載された日本語論文は、1年以内に英訳をMaterials Transactionsに投稿することができます。しかも、掲載から6ヶ月を過ぎると全ての論文がオープンアクセスになりますので、最終的には研究成果を世界に発信することができます。皆様方の、ご協力をぜひ、宜しくお願い致します。

もう一つ挙げられた課題として一応実現された事務局(大阪科学技術センター内)ですが、今年度から事務員の雇用を開始すると、借室料と雇用費が発生し、学会全体として赤字になってしまいます。数年は、これまでの蓄積を取り崩すことで何とか対応できますが、できるだけ早くに赤字を解消しなければなりません。会費を値上げせずに行うためには、会員数を増やす必要があります。現状でも会員は、毎年微増していますが、会員増を加速するために分野を拡大することが考えられます。幸い、副会長の福田様が、熱電に興味を持っている会社を次々と維持会員や賛助会員に勧誘して下さっています。また、私の周囲では、熱電に興味を持った方が増えてきたことを実感しています。一つは有機半導体の分野です。これまでも、学術講演会等で多少の講演はありましたが、潜在的にはかなり多くの研究者がおられると感じています。もう一つは、スピンゼーベック効果などを研究している基礎物理学の研究者の方々です。このような方々を、日本熱電学会の学術講演会にお誘いしようと思っています。皆様方も、お近くで熱電に興味を持った方がいらしたら、ぜひ、お誘い下さるようお願い致します。

以上、これからの日本熱電学会に必要な、直近の課題に対する二つのお願いをして、私の会長としてのご挨拶に代えさせていただきます。